【レンドルvsアガシ】

 

※データはATPより引用
Ivan Lendl (USA) vs. Andre Agassi (USA)
1987-08-03 Stratton Mountain Hardcourt SF Ivan Lendl (USA) 6-2 5-7 6-3
1988-08-29 U.S. Open Hardcourt SF Ivan Lendl (USA) 4-6 6-2 6-3 6-4
1988-11-28 New York Indoor Carpet RR Ivan Lendl (USA) 1-6 7-6 6-3
1989-05-01 Forest Hills Clay SF Ivan Lendl (USA) 6-2 6-3
1989-08-14 Montreal Hardcourt SF Ivan Lendl (USA) 6-2 3-6 6-4
1989-08-28 U.S. Open Hardcourt SF Ivan Lendl (USA) 7-6 6-1 3-6 6-1
1992-07-20 Toronto Hardcourt F Andre Agassi (USA) 3-6 6-2 6-0
1993-08-16 New Haven Hardcourt QF Andre Agassi (USA) 6-3 6-4
Ivan Lendl (USA) leads 6:2
Hard: Ivan Lendl (USA) leads 4:2
Clay: Ivan Lendl (USA) leads 1:0
Grass: Tied 0:0
Carpet: Ivan Lendl (USA) leads 1:0

【80年代と90年代の最強ストローカー】

レンドルの6勝2敗。

キャリア初期のアガシレンドルに全く勝てなかった。
最後に2勝を挙げるが、その時のレンドルはピークを過ぎていた。
結局2人は充分に戦えたとはいえないだろう。

「ボルグvsレンドル」と同じように、両者は違う時代の選手だったと言っていい。

アガシは、若い頃からプレースタイルに変化のない選手だが、
その基本能力は大きく変化している。
代名詞とも言うべきライジングショットを極めたのは90年代後半だ。
本当に強くなった頃にレンドルは既にいなかった。

両者がもしも全盛期同士で対決していたら、
おそらくそれは究極の試合の一つになったであろう。



【史上最強のハードヒッター】

 
両者は共に、史上最強のハードヒッターと呼ばれるにふさわしい選手だ。
そのストロークを比較してみる。

レンドルは、エンドラインの後ろに位置し、ボールが上がりきった所を打つ。
最も高い打点でボールを捉えるので非常に強烈なショットになる。
ボールスピードなら最高だ。
一方アガシは、エンドラインの内側に位置し、ボールが上がりきる前に打つ。
相手ボールのペースも使うので威力が増す。スピード以上に重さのある球となる。
また相手にしてみれば、返ってくるタイミングが早いのでペースがつかめない。

両者、緩急の使い方も巧みだ。
レンドル深い球でじわじわと追い詰める。そしてチャンスになると強打を打ち込む。
アガシはストレート方向の球に、スピンをかけたアングルショットを織り交ぜる。
相手の意識がどちらかに寄った所で、強打を叩き込む。
どちらもただ強いだけでなく配球が完璧だった。
テクニックを併せ持たずして「最強」を名乗ることは許されないのだ。

フットワークに関してはレンドルがやや優勢だ。
アガシのフットワークも悪くはないが、全身を使うショットのため、
ショットの打ち終わりから動き出しまでにタイムロスが発生した。

両者のショットの違いはリターンにも表れる。
チャンスボールを叩くだけならレンドルは強い。
しかしレンドルの場合、速いサーブを打たれた時やフォームを崩された時などには、
コントロールショットに切り替える必要があった。
一方アガシは、速い球であろうが食い込まれようが、どんな球でも叩けるスタイルだ。
よりコンパクトで全身を使うスイングがそれを可能にした。
ただ、ボールをより近くで的確に捉える必要があるので、
ある程度コースを予測してのギャンブル的なリターンになった。
つまり、リターンエースアガシのほうが多いが、
サービスエースを食らう数もアガシのほうが多いということになる。
このアガシのリターンは、ビッグサーバーがほとんどだった90年代に合致させたスタイルだったといえる。



【最強の系譜】

   
70年代最強のストローカー《ボルグ》
80年代最強のストローカー《レンドル》
90年代最強のストローカー《アガシ》


最強の系譜はこのように受け継がれていると見ていいだろう。

ボルグレンドルも、対ストローカー戦績で優位に立ち、
その時代最強ストローカーとして君臨してきた。
ではアガシの場合はどうだろうか。

アガシの主要ストローカーとの対戦成績

名前対戦成績
クーリエ5勝7敗
チャン15勝7敗
ゴメス2勝3敗
ブルゲラ7勝2敗
ムスター5勝4敗
カフェルニコフ8勝4敗
モヤ3勝1敗
リオス1勝2敗
クエルテン7勝4敗

結果は悪くはないというか、トータルでは一番強いのかもしれないが、何かずば抜けている気がしない
特に、同世代のクーリエ負け越してしまっているのがマイナスだ。

この意味で、厳密には最強の系譜を受け継いでいるとは言えない。

しかし、アガシを擁護すれば、90年代テニス界において、
ストローカーそのものはメインではなかったともいえる。
この時代に最強を名乗るには、テニス界を席巻していたビッグサーバーを破る必要があったのである。

アガシのビッグサーバーとの対戦成績

名前対戦成績
ベッカー10勝4敗
サンプラス14勝20敗
イバニセビッチ4勝3敗
シュティッヒ6勝0敗
ロセ4勝2敗
クライチェク4勝3敗
フィリポーシス6勝2敗
ルゼドゥスキー8勝2敗

王者サンプラスは仕方ないとしても、
アガシビッグサーバーを料理しきっていると言えるだろう。
時代の最先端だったはずのプレースタイルを完全に打ち破っているのだ。

アガシは唯一、ビッグサーバーに屈しなかったストローカーだといえる。
それは、より若い世代のロディックにも5勝1敗と勝ち越していることでも証明されている。

90年代にこれほどの戦績を残したストローカーはいない。
やはりアガシこそが90年代最強のストローカーだったのだ。



【プレースタイル】


サーブスピン重視のスタイルだった。
そのためスピードはそれ程でもなかったが、重さ安定感が充分で、
次のストロークにつなげるために効果的なサーブだった。

ただ、稀に出る最速サーブは驚くほど速いことがあった。
年に1度あるかどうかというレアケースではあるのだが、
出たときはまるで別人のような高速サーブで、
試合によってはベッカーサンプラスよりも速い時さえあった。
(あるいは計測開始当初の機械の不安定さによって引き起こされた現象かもしれない)

また、スピン系の選手は、優れたセカンドサーブを持つことが多く、アガシもそうだった。
サービスダッシュをしなかったのでギリギリのサーブを打つ必要は無かったが
安定感は飛びぬけており、その後のストローク戦で優位に立てるものだった。

ネットプレーも無難にこなしたので、時にオールラウンドと称されることもあるが、
冷静に現在の基準から判断すれば、典型的なストローカーだといえる。
ネットでの反応は良かったが、細かい技を持っていたわけではなく、
頻繁にネットに出るスタイルには向いていなかった。


ストローク90年代最高のものであり、
特にライジングショットに関してはパイオニア的存在だった。
ボールスピードだけならクーリエモヤも負けてないが、
球の重さやどんな状況にも対応できる汎用性を含めればアガシのショットが最も完成されたものだった。
フォア、バック、どちらからも遜色のないショットを打てたのも大きい。
また、アングルショットを効果的に使う組み立ても見事だった。

両手打ちの選手が片手でのバックハンドスライスを使うのは普通であり、
アガシも例に漏れず使用したが、それ以外にフォアハンドでもスライスを使った。
これはサンプラスチャンも用いたのだが、緩い球の重要性を再認識させたショットだった。
ハードヒットのイメージが強いアガシだが、決してラケットを振り回しただけではなかったのだ。


ストローカーとして不足のないフットワークは持っているものの、俊足の選手ではなかった。
球を拾うよりも、組み立てと速いテンポで相手を追い詰めるスタイルだったといえる。
また、特徴である全身を使ったショットは、打ち終わりにタイムロスが発生したため、
実際よりもストローク戦における俊敏なイメージが少なくなったのは止むを得ないことだろう。

同年代の選手達の中でも2000年になってもまだ強かった数少ない選手だ。
しかも尚パワーアップしていった。
ボールの威力は晩年のほうが強く、サーブの200km/h超もしばしばだった。
プレースタイルは21世紀になっても古くならなかったのが脅威といえる。


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