【レンドルvsビランデル】

 

※データはATPより引用
Ivan Lendl (USA) vs. Mats Wilander (SWE)
1982-05-24 Roland Garros Clay R16 Mats Wilander (SWE) 4-6 7-5 3-6 6-4 6-2
1982-08-30 U.S. Open Hardcourt R16 Ivan Lendl (USA) 6-2 6-2 6-2
1982-10-04 Barcelona Clay QF Mats Wilander (SWE) 7-6 6-1
1983-03-07 Brussels Indoor Carpet SF Ivan Lendl (USA) 7-6 7-6
1983-08-15 Cincinnati Hardcourt SF Mats Wilander (SWE) 6-0 6-3
1983-08-29 U.S. Open Hardcourt QF Ivan Lendl (USA) 6-4 6-4 7-6
1983-11-28 Australian Open Grass F Mats Wilander (SWE) 6-1 6-4 6-4
1984-05-21 World Team Cup Clay RR Ivan Lendl (USA) 7-6 7-5
1984-05-28 Roland Garros Clay SF Ivan Lendl (USA) 6-3 6-3 7-5
1984-09-28 Davis Cup (WG-SF) SWE vs. TCH Clay RR Mats Wilander (SWE) 6-3 4-6 6-2
1985-04-01 Monte Carlo Clay F Ivan Lendl (USA) 6-1 6-3 4-6 6-4
1985-05-20 World Team Cup Clay RR Ivan Lendl (USA) 6-4 6-3
1985-05-27 Roland Garros Clay F Mats Wilander (SWE) 3-6 6-4 6-2 6-2
1985-10-21 Tokyo Indoor Carpet F Ivan Lendl (USA) 6-0 6-4
1986-02-10 Boca West Hardcourt F Ivan Lendl (USA) 3-6 6-1 7-6 6-4
1986-12-01 New York Indoor Carpet SF Ivan Lendl (USA) 6-4 6-2
1987-05-25 Roland Garros Clay F Ivan Lendl (USA) 7-5 6-2 3-6 7-6
1987-08-31 U.S. Open Hardcourt F Ivan Lendl (USA) 6-7 6-0 7-6 6-4
1987-11-30 New York Indoor Carpet F Ivan Lendl (USA) 6-2 6-2 6-3
1988-08-29 U.S. Open Hardcourt F Mats Wilander (SWE) 6-4 4-6 6-3 5-7 6-4
1994-01-10 Sydney Hardcourt R32 Ivan Lendl (USA) 6-2 6-1
1994-05-09 Coral Springs Clay R16 Ivan Lendl (USA) 6-3 4-6 7-5
Ivan Lendl (USA) leads 15:7
Hard: Ivan Lendl (USA) leads 5:2
Clay: Ivan Lendl (USA) leads 6:4
Grass: Mats Wilander (SWE) leads 1:0
Carpet: Ivan Lendl (USA) leads 4:0

【予想以上に差がある対戦成績】

レンドルの15勝7敗
2人のキャリアから見ると随分差があるように感じる。

ビランデルというのは不思議な選手だ。
ランキング1位を経験していて、グランドスラム優勝も7回ある。
キャリアとしては充分立派なのだが、
当サイト内の各データランキングでもいまいち上位に顔を出してこない。
目立つのはグランドスラム3勝をした1988年の成績のみと言ってよく、
キャリア全体を通して決定的に強かったというイメージがないのだ。

両者の対戦は質の高い打ち合いになったが、多くの場合レンドルが勝利した。

しかし、ここ一番という集中力を見せたとき、
ビランデルは最高のテニスを披露した。
特にグランドスラムとなるとその強さは豹変した。

2人のベストマッチは1988年の全米決勝になるだろう。
ビランデルにとって初の全米制覇と共に初のランキング1位のかかった試合だった。
結果、5セットにもつれ込む大激戦となったのである。



【グランドスラムに滅法強い】


ビランデルはグランドスラムには強かった。

プロ入り最初のタイトルは1982年の全仏であった。
ボルグ引退の翌年に、同国スウェーデンからボルグ2世とも言うべき選手が颯爽と登場したのである。
ボルグが最初に全仏優勝した時よりも更に若く、
1989年にマイケル・チャンによって更新されるまで大会史上最年少となった記録である。

その後、年に一度のペースでグランドスラム優勝を重ね、1988年の3勝を含め計7回も優勝する。

グランドスラムにどれだけ強かったかという部分をもっとわかりやすく見てみたい。
同時代の主要選手との全対戦成績とグランドスラムでの対戦成績を表にしてみた。

全対戦成績 グランドスラム
ベッカー3勝7敗3勝0敗
エドバーグ11勝9敗3勝2敗
マッケンロー6勝7敗3勝2敗
レンドル7勝15敗4勝5敗
合計27勝38敗13勝9敗
勝率41.5%59.0%

明らかに人が違うのがわかる。
ベッカーとの対戦などはグランドスラムかどうかで勝ち負けが決まっている。


一方で、グランドスラム以外ではいまいち本領を発揮しなかった。
特にインドア大会での成績は悪かった。
上記4人とのインドアでの対戦成績を見てみよう。

対戦相手インドア対戦
ベッカー0勝6敗
エドバーグ1勝5敗
マッケンロー1勝5敗
レンドル0勝4敗
合計2勝20敗

弱い。圧倒的に弱い。
インドアのグランドスラム大会が無かったのが救いだ。
あるいは無かったから弱かったのだろうか。

ビランデルは、負けるときは実にあっさりと負けるので
実際に試合を観て、この選手は本当に強いのかと疑問を持った人も少なくないようだ。



【ビランデルという選手】


ビランデルは強力な武器を持つ選手ではなかった。
サーブもボレーもストロークもいずれも水準以上だったが
あくまでも水準以上というものであって決定的なものではなかった。
唯一バックハンドのみは最高レベルだったといえるが
総じて能力よりも精神力で勝負する選手だったと言える。

その点で母国の英雄であるボルグとしばしば比較されるが
ビランデル本人は比較されることを好んではいなかったようだ。

結局、一年中高い集中力を維持するのは難しいということになるのだろう。

他の大会で手を抜いていたということもないだろうが、
グランドスラムに照準を合わせていたという言い方が正しいのかもしれない。
考え方によれば効率的で勝負強い選手だったといえる。

1988年に頂点を極めたビランデルは、それによってテニスへの興味を失ってしまったのか、
翌年から試合に勝たなくなり、表舞台からあっという間に姿を消してしまった。
現役は1996年まで続けるものの、事実上1988年でキャリアが終わってしまったと言っていい。

もしも大先輩のボルグ同様、1988年終了時にさっと引退していたなら、
ビランデル伝説になれただろうか?



【プレースタイル】


どんなプレーもそつなくこなす選手だ。

サーブは、エースを連発するタイプのものではなかったが、
それでも時に見せるフラットサーブはかなり速かった。
本人も嫌がっているのに、ボルグとの比較になって申し訳ない気もするが
スピードに関してはボルグ以上だっただろう。

ストロークは、レンドルが確立したフォアの逆クロスを主体とした組み立てを用いており
スライスや山なりのスピンボールを多用して緩やかなペースで試合運びをした。
強打すればかなり強い球が打てるのに、それをあまり見せなかった。

フォアは強いトップスピンのかかった球で、スピードよりも安定性を重視したものだった。

一方バックハンドは、両手打ちとしては80年代最高のものを持っていた。
恐らくは片手でも充分強く打てたのだろうと思わせるショットで、
コース、スピン、威力いずれも申し分なかった。

ビランデルバックハンドが優れているもう一つの理由として、
片手打ちのスライスを極めていたということがあげられる。

通常両手打ちバックハンドの選手は、低い球や遠い球が打ちにくいという弱点を補うために
片手でのスライスショットを身に付ける。
しかしほとんどの場合、片手打ちが苦手だから両手打ちになっているわけで、
この片手打ちショットは守備的な緊急時のものにしかならず、武器としては身に付かない。
ビランデルは両手打ちでありながらも例外的にスライスバックハンドを使いこなした選手だった。
ストローク戦で強打をなかなか見せなかったのも、
緩い球にも自信を持っていたからかもしれない。

フットワークは安定していて速さも充分だった。
抜きん出た快速の持ち主というわけではなかったが
安定感、粘り、そしてペース配分の巧みさが、非常に優れたフットワークのイメージをもたらしていた。

元々クレーコートを得意とするプレーヤーだが、グラスコートでも充分戦える選手だった。
それは高いボレー能力を持っていたためで、グラスコートではネットダッシュを多く使った。


ビランデルのスタイルは、どうしても同郷のボルグと比べられてしまうことが多いのだが
こうして改めて確認してみると、やはり本人が目指していたのはボルグのプレーとは違うものであったのだと感じる。


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