【ブラボー集解説全文】


●「ブラボー」とは

クラシックコンサート等で演奏終了後に拍手喝采をする際に使用するかけ声のことです。
語源はフランス語とされていますが現在はイタリア語や英語でも使用されています。


●複数の「ブラボー」

イタリア語の辞書をひくと
「bravo(ブラヴォ)」は男性に、
「brava(ブラヴァ)」は女性に、
「bravi(ブラヴィ)」はグループに用いると説明されています。
しかし英語では全て「bravo(ブラヴォ)」で対象によって違いはありません。

このため英語風を採用し、使い分けなくていいという意見と
イタリア語風に正しく使い分けるべきだという意見とがあります。
実際どちらでもいいのですが、クラシックの演奏会では使い分けられていることが多いようです。

ソリストの場合、男性ならbravo(ブラヴォ)、女性ならbrava(ブラヴァ)を使い、
室内楽など数人で行われる演奏会の場合はbravi(ブラヴィ)を使います。
しかし、オーケストラの場合はまとめて一つと考えるのでしょう
bravo(ブラヴォ)を使うのが一般的です。

当CDでは、主にオーケストラの演奏会を取り上げていますので
bravo(ブラヴォ)で問題ないことになります。
表記は日本語風になってしまいますが、最も一般的にカタカタ表記として使用されているので
「ブラボー」を使用いたします。


●色々なブラボーを聴いてみよう

極端に言えば「ブラボー」は文化です。場所や時代によって違いが現れてきます。
当CDはそのような違いを楽しむべく作成されました。
是非、トラックごとの解説も合わせてご試聴下さい。


1)まずはとにかくブラボーを聴いてみよう

 冒頭からの激しいブラボーをご堪能下さい。
0:45あたりから叫びにも似た何かが聞こえ演奏会の熱狂ぶりが伝わります。
しかし実際に目の前でこれをやられたらちょっとひきます。
これは1973年東京でのブラボーです。実は日本はかなりのブラボー大国なのです。

《ブラボー音源1 0:58》
 演奏:カラヤン指揮/ベルリン・フィル
 場所:東京NHKホール
 日時:1973年


2)戦時中のアメリカ

 曲が終わってないのに激しく拍手を始めています。
アメリカという国が熱狂しやすい国であることは容易に想像できると思います。
そしてこの頃人々は、強く娯楽を求めておりました。
そういった背景を考えれば納得のフライングブラボーです。

《ブラボー音源2 0:30》
 曲目:チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
 演奏:ホロヴィッツ(ピアノ)/トスカニーニ指揮/NBC交響楽団
 場所:ニューヨーク・カーネギーホール
 日時:1943年


3)戦後のアメリカ

 戦後になってどう変わったか注目でしたが、終わるか終わらないかのギリギリで出てます。
さすがにフライングではないですが、時代的に少し落ち着いたかといえばそうでもなく、
基本的に熱狂主義であることには変わりないようです。

《ブラボー音源3 0:31》
 曲目:ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」
 演奏:カラヤン指揮/ベルリン・フィル
 場所:ニューヨーク・カーネギーホール
 日時:1976年


4)イタリアでのハプニング

 次にブラボーではないですが、もっと凄いイタリアの例です。演奏の途中で拍手が出てきます。
それはすぐに納まりますが、直後に演奏がやや乱れるのが面白いです。演奏者も面喰ったのでしょう。
もっとも、この時はお客さんが曲を知らなかったために起こったのだろうといわれています。
当音源では拍手はすぐにやんでいますが、実際にはもっと長く続いていたともいわれています。
演奏に支障のない部分だけ電気的な編集を加えて拍手を取り除いたとのことです。

《ブラボー音源4 0:37》
 曲目:チャイコフスキー 交響曲第5番
 演奏:フルトヴェングラー指揮/トリノ放送o
 場所:トリノ
 日時:1952年


5)イタリア・オペラ

 曲を知らなかったからとはいえ、終わってないのに拍手を出すのは
やはりイタリア的だといえます。これは元々オペラの文化からきています。
オペラでは曲の途中であってもいい歌には拍手を加える風習がありました。
このトラックでは歌(素晴らしいできです!)のあと後奏が流れるのですが、
我慢できなくなった聴衆が終わる前に拍手を始めているのがわかります。
 イタリアのオペラ歌手に言わせれば、律儀に演奏が終わるまで待っている
日本の聴衆は熱狂度が足りないらしいです。まあ、日本人の感覚からは
イタリア的熱狂が必ずしもいいこととはちょっと思えませんが。

《ブラボー音源5 0:45》
 曲目:ヴェルディ 歌劇「オテロ」
 演奏:クライバー指揮/ミラノ・スカラ座o
 場所:ミラノ・スカラ座
 日時:1981年


6)日本での伝説的演奏

 いよいよわが国のブラボーです。終演直後の熱狂をお楽しみ下さい。
特に、明確にそれとわかる日本人特有の発音は必聴です。
これを聴くとイタリア演奏家の意見が疑わしくなります。
実は日本人はオペラではさほど熱狂的ではないのですが
巨匠の伝説的コンサートなどでは世界一のブラボー大国に豹変するのです。
ブラボーを叫ぶことに生き甲斐を感じている人さえいるとまで言われています。
 関係ないですが、かつて行った演奏会で、
隣のおじさんが「ボー!ボー!」と激しく叫んでいました。
耳元で叫ばれるのも困りものでしたが発音がなってないにもほどがあります。

《ブラボー音源6 0:38》
 曲目:ベートーヴェン 交響曲第7番
 演奏:クライバー指揮/バイエルン国立歌劇場o
 場所:東京人見記念講堂
 日時:1986年


7)朝比奈老の名演

 もう一つ日本の演奏会から。終演後の有名な叫びです。もはや言葉にもなっていません。
朝比奈隆は日本の誇る巨匠指揮者で多くのコアなファンがいました。
しかしそのコアぶりが異常な熱狂へと発展していった例も多く、
この演奏会での絶叫もそういった一人によって生み出されたものです。
 これがCD化されたときには、大手サイトのレビュー欄に
この演奏を実際にコンサート会場で聴いたという者が現れ
人間感動するとブラボーなんて言ってられない、自分はただ叫ぶのみだったというようなことを書き、
他の人から折角の演奏がお前の変な叫びで台無しになってるじゃないか
と散々に叩かれていました。

《ブラボー音源7 1:05》
 曲目:ブルックナー 交響曲第5番
 演奏:朝比奈隆指揮/大阪フィル
 場所:東京文化会館
 日時:1973年


8)ドイツの聴衆

 トラッ15と同じ指揮者、同じオーケストラ、同じ曲目ですが、こちらはドイツのブラボーです。
日本とドイツの違いをじっくりご確認下さい。日本でのあれほどの熱狂はありません。
終演後一瞬の間があり、やがてパラパラと拍手が沸き起こっていくのが分かります。
ちょっと聴くとそれほどの熱狂ではなく、大した演奏ではなかったのではと思わせますが、
そうではなく、0:28あたりから次第に盛り上がりブラボーが出始めるのがわかります。
終わった直後の「間」も音楽であるということをドイツの聴衆は知っているのです。
 よく聴くと1分あたりから叫びっぱなしの女性がいるのがわかります。
これは一説に、当時名物と言われたおっかけおばさんだそうです。

《ブラボー音源8 1:26》
 曲目:ベートーヴェン 交響曲第7番
 演奏:クライバー指揮/バイエルン国立歌劇場o
 場所:ミュンヘン国立劇場
 日時:1982年


9)ドイツ聴衆の真骨頂

 静かな曲なので分かりにくいのですが、是非終演後の「間=沈黙」をご堪能下さい。
これぞベルリンの演奏です。音楽は静かに消え入り0:30あたりで鳴り終わってます。
そしてその後の約45秒の沈黙!!音が止んでも指揮者が腕を下ろすまで拍手は出ません。
やがて拍手が出始めますが、ブラボーが聞こえてくるのは更にその40秒後です。

《ブラボー音源9 2:35》
 曲目:マーラー 交響曲第9番
 演奏:アバド指揮/ベルリン・フィル
 場所:ベルリン・フィルハーモニーザール
 日時:2001年


10)フランスでは

 フランスのブラボーです。フライングはしていませんが終了と同時に飛び出します。
日本と同じでブラボーを言いたいという感じに受け取れます。熱狂度も高いです。

《ブラボー音源10 0:33》
 曲目:マーラー 交響曲第6番
 演奏:カラヤン指揮/ベルリン・フィル
 場所:パリ・シャンゼリゼ劇場
 日時:1976年


11)イギリスのブラボー

 大巨匠指揮者トスカニーニが戦後初のイギリス公演を行ったときの模様です。
さすがに伝説的演奏会なので、終演と同時にフライング気味に拍手が出ています。
しかしすぐにブラボーは出ません。しばらくして0:30辺りからようやく出始めます。
熱狂も充分に伝わるし、すぐにブラボーもでないので非常に耳にも心地よい終演です。
ドイツの例と並んで好感が持てます。

《ブラボー音源11 1:09》
 曲目:ブラームス 交響曲第2番
 演奏:トスカニーニ指揮/フィルハーモニアo
 場所:ロンドン
 日時:1952年


●特殊なものシリーズ

さて、この後はちょっと変わったシリーズをお届けします。


12)始まる前のブラボー

 演奏への喝采のはずのブラボーが何故か始まる前に出ています。
最初にこのCDを聴いたとき、ブラボーが聞こえてきたので面喰いました。
フランクフルトでの演奏ですが発音から日本人じゃないかと推測されます。

《ブラボー音源12 1:15》
 曲目:シューベルト 交響曲第8番「未完成」
 演奏:カラヤン指揮/ベルリン・フィル
 場所:フランクフルト
 日時:1987年


13)シェーン(素晴らしい)

 ブラボーではありませんが演奏者が声を出した珍しい例です。終演後「シェーン」という声が聞こえます。
あまりに素晴らしい演奏だったので、指揮者が思わず声に出したといわれています。
 しかし一番前に座っていた男性が言ったという別説もあり真相は分かっていません。
どちらにしろこの演奏はどこでも絶賛されている見事なものです。

《ブラボー音源13 0:48》
 曲目:シューベルト 交響曲第8番「未完成」
 演奏:クレンペラー指揮/ウィーン・フィル
 場所:ウィーン・ムジークフェラインザール
 日時:1968年


●擬似ブラボー体験

最後に、ブラボーを疑似体験してみましょう。


14)ブラボーへの誘い
 ある演奏会の終演後の様子を実に4分近くにわたって収録した音源があります。
ここではそれをそのまま転用しました。演奏会場にいるつもりになって雰囲気をご堪能下さい。
 これはドイツでの演奏会ですので終演直後の拍手はまばらです。
しかしやがて喝采の渦が大きく膨れ上がっていきます。
1:05、2:05、2:32、3:28あたりで待望のブラボーが沸き起こります。
一度退散した指揮者がまた舞台に現れた際の所作によるものでしょう。
状況が許せば一緒になってブラボーを叫んでみるのもいいかもしれません。

《ブラボー音源14 3:52》
 曲目:ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」
 演奏:クライバー指揮/バイエルン国立歌劇場o
 場所:ミュンヘン
 日時:1983年


「ブラボー」に含まれた文化、そしてその意味深さ。
当CDをお聴きいただき、それらに少しでも興味をもたれたら
今度は是非演奏会場に足を運んでみてください。


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