サリエーリ音楽塾 フンメルのピアノ協奏曲

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  更新日:2008/05/28
フンメルのピアノ協奏曲


フンメルは全部で8曲のピアノ協奏曲を作曲している。
ここでは、10代で作られた習作的な2曲を除き、
番号の付けられた1番から6番までの全6曲を順に取り上げてみたい。

ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 Op.34a(Op.36)

《ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 Op.34a(Op.36)

作品番号には多少の混乱がある。通常は34番とされるが、
 34番には別の曲も割り当たっているため「a」を付けて区分けされる場合と、
 欠番となっている36番が割り当てられる場合とがある。

1811年、エステルハージ楽長時代に作曲された。

曲はフンメルのピアノ協奏曲でも特に規模が大きい。
ピアノの速いパッセージが多く登場するが、これはフンメルの得意技で、
当時のピアノ協奏曲がピアニストの技巧を聴かせるものであったことを表している。
伴奏のオーケストラも決してピアノの添え物にはなっていない。
所々に顔を出す木管のユーモラスな旋律は師であるハイドンの影響だろうか。

ピアノの速いパッセージは曲全体で一貫している。
特に第2楽章と第3楽章ではピアノの表情はあまり変わらず、
伴奏のオーケストラがゆったり演奏するか速く演奏するかで曲の雰囲気が作られている。
これは統一感と判断することもできるが、反面、単調さと捉えることもできるだろう。
ただ全体的には聴きやすく非常に楽しめる音楽となっている。

《演奏》

ハワード・シェリー(指揮&ピアノ)/ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
Howard Shelley(cond & p)/London Mozart Players
レーベル:Chandos
録音:2003年
演奏時間:第1楽章:12:51、第2楽章:11:07、第3楽章:10:57

シャンドス(Chandos)はフンメルの作品を積極的に発売しており
シェリーが弾き振りでピアノ協奏曲集を担当している。
オーケストラ名は読んで字のごとくで、古典派を中心レパートリーとする団体である。
楽器は古楽器ではなく通常の現代楽器だが、申し分のない演奏を聴かせている。

ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 Op.85

《ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 Op.85》

1816年、ウィーンで大ピアニストとしてセンセーションを巻き起こしていたときの作品。

フンメルのピアノ協奏曲中最も有名な作品であり、初めての短調の協奏曲でもある。
第1番では多分に古典派的な雰囲気を残していたが
この第2番は遥かに劇的で、ショパンを思わせるロマン派的な作品となっている。
事実ショパンは、後にこの曲との類似を懸念して自身のピアノ協奏曲の出版を躊躇したという。

ピアノパートで速いパッセージが支配的なのは第1番と変わらないが、
第2楽章を短くして第3楽章へアタッカで繋げることで序奏のように扱い、
結果として冗長さを防いでいるのは見事な演出だ。
曲の最後の最後でも聴き所が用意されていて全く飽きさせない作品に仕上がっている。

《演奏》

スティーブン・ハフ(ピアノ)、ブライアン・トムソン(指揮)/イギリス室内管弦楽団
Stephen Hough(p), Bryden Thomson(cond)/English Chamber Orchestra
レーベル:Chandos
録音:1986年
演奏時間:第1楽章:15:31、第2楽章:4:24、第3楽章:10:34

ピアニストの見せ場がふんだんに盛り込まれた曲だが、
ハフは難しいパッセージを危なげなくさらりと、それでいて見事に弾きこなしてしまう。
元々技巧的なピアニストとして有名な人物だが、凄さを前面に出してこないあたりが
過度に華麗にならないフンメルの曲に非常によくマッチしている。
バックのイギリス室内管弦楽団も古くからモーツァルトを得意としてきた楽団だけあり
ハフに負けない素晴らしい演奏を聴かせてくれる。

この曲はフンメルの代表作なので、競合盤も多い。
しかしこのハフ盤が今のところ最も優れた演奏ではないだろうか。
廉価レーベルであるNaxosからも同曲のアルバムが出ており、
ハフ盤の約半額で買えてしまうが、演奏は危なっかしくあまりお勧めできない。

ピアノ協奏曲 第3番 ロ短調 Op.89

《ピアノ協奏曲 第3番 ロ短調 Op.89》

1819年、おそらくはシュトゥットガルトの宮廷時代に作られた作品。

第2番に並ぶ傑作協奏曲で、オーケストラ部の比重が大きくなっているのが特徴と言える。
開始から激しい動きをみせる第2番とは違って、
第1楽章は内面にこもったような曲調が支配的である。
第2楽章もピアノの速いパッセージは封印され叙情的な雰囲気に包まれる。
第3楽章になってようやく華麗な音楽が飛び出し、フンメルらしさが顔をだす。

曲全体を通じて次第に上昇カーブを築くという作りはフンメルとしては珍しいもので
曲調も第2番以上にロマン派的であることから、
それまでにない思い切った取り組みを行った曲だといえるだろう。

《演奏》

スティーブン・ハフ(ピアノ)、ブライアン・トムソン(指揮)/イギリス室内管弦楽団
Stephen Hough(p), Bryden Thomson(cond)/English Chamber Orchestra
レーベル:Chandos
録音:1986年
演奏時間:第1楽章:16:55、第2楽章:7:53、第3楽章:10:51

同じ短調曲ということで第2番と第3番はカップリングされることが多い。
これも上掲第2番と同じアルバムである。
ハフの演奏はここでも素晴らしいの一言だ。

因みにハフと同じシャンドスからフンメルのピアノ協奏曲集を出している
ハワード・シェリーだが、何故かこの曲だけは録音が見当たらない。
同じレーベルでハフ盤が出てしまっているのであえて録音していないのか、
今後録音が控えているのか、あるいはたまたま見つからないだけなのか。
ハフの演奏は確かに素晴らしいが、
折角のシェリーの取り組みが中途半端で終わるのは寂しいので
いつか全集として完結して欲しいと願っている。

ピアノ協奏曲 第4番 ホ長調「告別」Op.110

《ピアノ協奏曲 第4番 ホ長調「告別」Op.110》

出版の順序の影響で第4番となっているが、実際には第2番よりも早く1814年に作曲された作品である。

曲は非常にモーツァルト的で、きらびやかな雰囲気は健在だが
オーケストラがあまり前面に出てこないこともあり、他に比べるとおとなしい曲になっている。
フンメルの中で最もピアノが主体となった協奏曲といえるだろう。
フンメルの魅力の一つである、旋律が次から次へと展開していく作りは、
6曲の中で一番堪能できるかもしれない。
シンプルだが聴きやすく飽きさせない曲といえるだろう。

《演奏》

ハンス・カン(ピアノ)、ヘリベルト・バイセル(指揮)/ハンブルク交響楽団
Hans Kann(p),Heribert Beissel(cond)/Hamburg Symphony Orchestra
レーベル:Vox
録音:1968年
演奏時間:第1楽章:14:12、第2楽章:6:46、第3楽章:10:57

少々古い録音だが演奏のほうは古さを感じさせない。
カンもバイセルも知る人ぞ知るという名演奏家であり、
余計な味付けをすることなく曲の魅力をストレートに伝えてくれている。
このアルバムは「Romantic Piano Concerto」と題されたシリーズの一つとして出されたもので、
フンメルの他にヘンゼルト、アルカン、カルクブレンナーなど
マニアをうならせるラインナップが組まれている。

ピアノ協奏曲 第5番 変イ長調 Op.113

《ピアノ協奏曲 第5番 変イ長調 Op.113》

1825年、ワイマール宮廷時代に作曲された。
出版されたピアノ協奏曲としてはフンメル最後の作品で、第2番や第3番に並ぶ傑作といえる。

第1楽章は壮麗で、非常にベートーヴェン的な音楽となっている。
オーケストラ部の充実ぶりは第3番に匹敵するものがある。
フンメルのピアノ協奏曲のなかで最もロマン派的な曲だといえるだろう。
第2楽章は叙情的な音楽に終始して盛り上がりをセーブしている。これは第3番と共通の手法である。
また第2楽章を短めにして第3楽章にアタッカで繋げるという点は第2番の手法を踏襲している。

初めて明るい音楽に転じる第3楽章は、ピアノ協奏曲としては異例の
ポロネーズ風のリズムを刻み、非常に強い印象を与えることに成功している。

《演奏》

ハワード・シェリー(指揮&ピアノ)/ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
Howard Shelley(cond & p)/London Mozart Players
レーベル:Chandos
録音:1997年
演奏時間:第1楽章:15:45、第2楽章:4:47、第3楽章:9:19

シェリーによるピアノ協奏曲集からの1枚。
この人のお蔭でどれだけフンメルを楽しめるようになったことか。
当アルバムにカップリングされているコンチェルティーノOp.73は
マンドリン協奏曲を原曲に持つ非常に愛らしい曲である。
フンメルは協奏曲以外にもピアノとオーケストラのための作品を10曲残しており、
シェリーはそれらの録音も行っている。

ピアノ協奏曲 第6番 ヘ長調 Op.posth.1

《ピアノ協奏曲 第6番 ヘ長調 Op.posth.1》

第5番と同時期に作曲されたが、初演が不評であったために出版されなかった作品。
そのため作品番号は与えられておらず、正式には番号なしとなるのだが、
実質、第6番と呼んで差し支えない曲であろう。

第5番と比べると壮大さには欠けるが、聴かせどころが多くかなり楽しめる作品である。
古典派的な部分も顔を覗かせて聴きやすさもあるのだが、
逆にその辺りが当時の聴衆に受けなかったのだろうか。
初演された1833年は既に第九や幻想交響曲も作られていたので
より難解な曲が好まれる時代だったのかもしれない。

《演奏》

ハワード・シェリー(指揮&ピアノ)/ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ
Howard Shelley(cond & p)/London Mozart Players
レーベル:Chandos
録音:2000年
演奏時間:第1楽章:13:47、第2楽章:6:31、第3楽章:8:06

このアルバムには10代で作られた習作的な初期のピアノ協奏曲がカップリングされている。
初期と後期の作品の聴き比べができるという点で非常に興味深いアルバムとなっている。

現在市場に出回っているフンメルのピアノ協奏曲はほとんどが現代楽器による演奏である。
しかし、古楽演奏の波はロマン派にも伸びてきているから、今日の感覚でいえば
フンメルの曲が古楽器によって演奏されるのはむしろ自然なことだといえるはずである。
同じ曲でも現代楽器と古楽器とでは全然印象が違ってくるので、
今後古楽器演奏が増えてくればまた新しい発見ができることになるのかもしれない。

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