【コート種別検証】
プロテニスで使用されるコートは大きく4つに分類することができる。
ハード、クレー、グラス、カーペットだ。
各コートにはそれぞれ固有の特徴があるが、
一番大きな違いはボールのバウンドということになるだろう。
以下にそれぞれの特徴を簡単に表にしてみた。
コート | 速さ | 高さ |
ハード | 普通 | 高い |
クレー | 遅い | やや高い |
グラス | 速い | 低い |
カーペット | やや速い | 普通 |
【クレーコートとグラスコート】
![](images/TennisCourtGrass.JPG)
クレーコートは土のコート、グラスコートは芝生のコートである。
どちらもテニスでは伝統あるコートだが、この2つは全く逆の特性を持っている。
クレーはバウンド後の球足が遅く、グラスは逆に非常に速い。
また、クレーはボールがよく弾むが、グラスは全く弾まない。
結果、クレーではボールはバウンド後にブレーキがかかり、グラスでは低く滑るように飛んでくる。
フットワークの使い方にも違いが表れる。
クレーでは土の上を滑りながらボールを拾うことが可能だが、
グラスでは足元が不安定なので小刻みなステップが必要となる。
また、芝は禿げたりする事も多くイレギュラーバウンドが多いのも特徴となっている。
一般に、ストローカーはクレーが得意で、ネットプレイヤーはグラスが得意と言われる。
クレーではボールが減速するため、コートの後ろで走り回る選手はボールに追いつきやすくなる。
またボールがゆっくりと跳ねるので、しっかりと構えて打つこともできるようになる。
特に、ラケットを下から上に振り上げるトップスピンを得意とする選手にとって
クレーコートは絶好のコートということになる。
一方のネットプレイヤーだが、その最大の武器であるボレーは、ショットそのものに威力があるわけではない。
相手の居ない所に返すというのがプレーの基本スタンスになるのだが、
ボールが減速するクレーでは相手に追いつかれやすくなるというデメリットが生じてしまう。
一方のグラスでは、ボールが低く速く飛んでいくため、ボレーが非常に有効な球となる。
また、球足が速いということはサーブの威力も倍増し、サーブ&ボレーは特に効果的である。
逆にストローカーにとってグラスは追いつきにくい上に低くて打ちにくいという厄介なコートになる。
グラスでは、ハードヒットしたり、強いトップスピンをかけたりすることが難しいので、
相手の球にペースを合わせるブロックショットが有効となる。
このショットは、ストロークではあるものボレーの延長とも言える打ち方になるので、
レシーブサイドでもネットプレイヤーのスタイルが有利となるのである。
![](images/hewitt-4a.jpg)
しかし中には、グラスが得意なストローカーというのも存在する。例えばレイトン・ヒューイットがそうだ。
ヒューイットは来た球にペースを合わせるカウンターショットを得意としている。
普通、この手のショットは守備的な打ち方になることが多いのだが、
ヒューイットのものは充分な攻撃力を備えており、攻防一体のショットとなっているのである。
これはアガシが発展させたショットであり、21世紀に広まった打ち方の特徴だといえる。
しかし、逆にしっかりとボールを打っていかなければならないクレーではこのショットの特性が活きず
ストローカーであるにも関わらずかかわらずヒューイットはクレーコートが苦手な選手となっている。
![](images/noah-3a.jpg)
全く逆に、クレーのほうが得意なネットプレイヤーもいる。
しかし、球足の遅いクレーでは浅いボレーや広角のボレーは有効であるものの、
あくまでも来た球を返すのがネットプレーであり、ストロークのように様々な球種を打ち分けられるわけではないから
クレーのほうが有効なネットプレーのスタイルというものがあるわけではない。
クレーでも強いネットプレイヤーというのは、能力が高いからプレー出来ているということが多いのだ。
しかし、ヤニック・ノアのような例もある。
ノアはネットプレイヤーだが、クレーに強く、逆にグラスでは極端に低い成績となっている。
(クレー勝率:73.12%、グラス勝率:45.45%)
これはノアのネットプレーがどうというよりも、そのストロークがグラスに不向きだからだといえる。
グラスでは速い球に合わせるストロークが必要なのだが、
ノアのストロークは典型的なクレーコート型のトップスピンなのである。
ただし、それにしてもノアのグラスでの成績はあまりにも低いので、
プレースタイル以外にも何かどうしても個人的に合わないという要素があったのかもしれない。
大柄な選手なので、グラスに小刻みなステップが苦手だったということも考えられる。
【ハードコート:最も平均的なコート】
![](images/TennisCourtHard.JPG)
ハードはクレーとグラスの中間に位置するコートだ。
ストローカーにもネットプレイヤーにも有効なコートとされる。
ただしバウンドはどのコートよりも高く、表面が硬いため足への負担が大きいなどハード特有の効果があるのも事実だ。
しかし、ほぼ全選手に平等なコートという評価は一致しており
現在ではハードを制するものがテニスを制すると言っても言い過ぎではない。
クセがない上に最も多いコートなので、慣れの関係もありハードが一番得意という選手は多い。
クレーもグラスも苦手だがハードだけは得意という選手さえいる。
多くのクレー巧者がグラスコートで勝てないのは特に問題視されないが
ハードコートでも勝てないのであれば実力に劣ると解釈されてしまうこともしばしばだ。
平均的なコートとはいえ、その高く弾むバウンドはハード固有の戦い方も生み出す。
フォアに回り込んでの強打や上から叩きつけるショットなど攻撃的なショットの多用が可能になり
またバウンド後に大きく変化する特性を活かして、回転をかけたサーブなども有効となる。
《ボルグの場合》
![](images/borg-4a.jpg)
少数派だが、ハードを苦手とする選手もいる。その代表がボルグだ。
ボルグはトップスピンを主体としたストローカーであり、典型的なクレーに強いスタイルの選手だといえる。
しかし、他のトップスピン選手と違い、時間をかけてボールにスピンをかけるようなことはしない。
合わせる感じでラケットを出し、振り抜きもシャープなので速いコートをものともしない。
また下からラケットを出した瞬間にフェースが決まっているので低い球に滅法強いという特長がある。
その結果、クレーと逆の特性を持つグラスコートでも抜群に強かったのである。
同じく球足の速いカーペットでも問題なく戦うことができた。
しかし、ハードでの成績のみ悪い。一番の理由はそのバウンドの高さにあったと考えられる。
ボルグは下から振り上げるトップスピンは素晴らしいが、逆に上から振り下ろす強打は持っていなかった。
高く跳ねるハードコートでは、上から叩くショットが有効なのだが、その決め球に欠けたのである。
ただし、ずば抜けたコントロールと確実性のおかげで苦手なハードでも70%を超える勝率を獲得しているのは流石といえるだろう。
【カーペット:意外にも特殊なコート】
![](images/TennisCourtCarpet.JPG)
カーペットはハードに近いが、ややグラスよりの特性を持つというコートである。
ハードよりも速いがグラスほどではなく、またハードほど高く弾まないがグラスほど低くもない。
色や材質なども様々存在する。
ハードコートと同じく、どのスタイルにも適したコートといえるが、
中でもグラスを得意とする選手にやや有利というイメージになるだろうか。
しかし調べてみると、意外にもカーペットが特殊なコートであることに気付く。
グラスもハードも得意だが、その中間のはずのカーペットで勝率が低いという選手が多いのだ。
サンプラス、アガシ、フェデラー、エドバーグなど。
理由として、まず、カーペットではマスターズ・カップなど
トップ選手同士の対戦が多いため勝率も自然と下がりがちというのが考えられる。
また、インドア(屋内)で開催されることが多く、その特殊な状況が独特の作用を及ぼす可能性も考えられる。
しかし、こういった特殊条件以外にも、純粋にコート特性としてのカーペットが
特定選手に得手不得手の作用を及ぼしている部分もあるのだ。
![](images/federer-6a.JPG)
まずグラスでは、ハードヒットがほとんどできないためブロックショットが主流になる。
例えばサンプラスはブロックショットに磨きをかけ、グラスコートで有効に使った。
一方で、ハードコートで多用した強打はグラスではあまり使わなかった。
またアガシやフェデラーのブロックショットは、並の強打に匹敵する威力を備えている。
合わせただけのショットなのに高速で威力があり、グラスでは相手にとって実に取りにくい球となる。
しかし、カーペットではこれらブロックショットはグラスの時ほどの効果はあがらない。
たしかに球足は速いがグラスコートほど低い球にはならないため、相手も比較的返しやすいのだ。
アガシ、フェデラーのブロックショットも、威力充分とはいえ厳密には真の強打ほど強くはない。
これがハードコートなら、上から叩きつける強打を多用することもできるのだが
ハードコートほど高く弾まないカーペットでは、それを使える機会も少なくなるのだ。
つまり、多くの選手がグラスとハードではプレースタイルを変えており、
単純にカーペットはその中間だから、というわけにはいかないのである。
![](images/becker-9a.jpg)
もっとも、中にはマッケンローやベッカーのようにバウンドの高さをあまり気にしない選手もいる。
こういった選手は純粋に球足の速さがそのまま勝率に現れる結果となっている。
《レンドルの場合》
![](images/lendl-masters.JPG)
カーペットを最も得意とする選手というのは珍しい。レンドルはその数少ない選手の一人である。
グラスを苦手としたので速いコートに弱かったと思われがちだが実はそうではない。
レンドルがグラスを苦手としていたのは、その速さではなく、低さが原因だったと考えていいだろう。
レンドルの振り上げるショットはグラスの低さには適さなかった。そのためブロックショットを使う必要があったのだが、
レンドルのブロックショットはアガシやフェデラーのような威力がなく、あくまでも守備的なショットだった。
結局グラスでは攻撃的なストローク戦に持ち込めないためネットプレーにスタイルチェンジしたのである。
一方、カーペットのバウンドならレンドルは問題なくハードヒットすることができた。
あのスイングスピードとフットワークがあれば球の速さなど関係なかったのだ。
また、強打だけでなく緩い球でペース配分するのも得意だったので、球足の速さを逆手に取り、
速さと遅さを巧みに織り交ぜて相手を翻弄することが可能だった。
ボルグ、レンドル、アガシ、フェデラー等、大きく分類すれば皆同じストローカーなのだが、
細かい個々のショットの差でここまで得手不得手の違いが出てくるというのは実に面白い。
【インドアという表現】
テニスでは「インドア」という言葉がよく使われる。屋内という意味である。
これは「インドア=カーペット」という意味で使われることがほとんどだった。
一時はインドアで行われる試合のほとんどはカーペットだったので
そう大きく外してはいなかったのだが、最近はインドアといえばハードコートであるし、
インドアでクレーコートという場合もあるので決して同じ意味では使うべきではないようにも思う。
また、アウトドアカーペットという大会も数少ないが存在する。
古くはインドアウッドなどというコートもあったようだ。
しかし、インドアという独特の表現は、テニス界に浸透しきっている。
例えば、現在のカーペットコートの連勝記録はレンドルの66であるが
一般にこれは「インドア」の連勝記録としてアナウンスされる。
細かく調べてみればこの記録は紛れもなく「インドア=カーペット」であることがわかるのだが
何故このような、コート種類ではない「インドア」という言葉をさも当たり前のように使うのだろうか。
インドアの特徴というと、屋根が閉じられ、無風であり、照明が付けられ、音が反響する。
そんなところだろうか。閉じた空間になるのでたしかに外でやるのとは勝手が違うのかもしれない。
しかしカーペットである以上にインドアであることがそんなに重要なのだろうか。
これは未だに解決を見ない、テニス界の不思議の一つである。
※2009年にはATPのカレンダーからカーペットコートが消えてしまった。
かつてのカーペットは完全にインドアハードに集約されたことになる。
【各コートの発祥】
テニスの発祥は8世紀フランスと言われている。
そのフランスを中心に、南欧や南米では今でもほとんどクレーコートが使われている。
また最古の大会ウィンブルドンは、開始時からグラスコートで開催されてきた。
テニス史は、ずっとこの2種類のコートが支配してきたといえる。
卓球を表すテーブルテニスと区別するために、テニスのことをローンテニスと呼ぶことがある。
ローンとは芝、すなわちグラスのことである。
それに比べて、現在主流のハードコートは遥かに新しい。
戦前からコート自体は存在していたようだが、
大きな大会で使われるようになったのはずっと後のことである。
全米では1978年から、全豪では1988年からハードコートが使われるようになった。
いずれもオープン化後であり、ごく最近のことであることがわかる。
残る一つだが、インドアという記述はわりと昔から登場している。
これをカーペットと解釈していいのかはわからないが(前述のようにインドアウッドなどもある)、
少なくともインドアに関しては1920年代からアメリカで使われ始めている。
アメリカのプロツアーはほとんどがインドアコートだったようだ。
残された記録から、クレーコート出身のコジェルフ、ニュスライン、セグラ等が、
プロに参戦した直後に速いコートに慣れるのに苦労していた様子を伺うことができる。
![](images/p-gonzales-2a.JPG)
因みに、オープン化以前でインドア最強の選手はパンチョ・ゴンザレスだとされる。
プロ大会のほとんどがインドアだったと考えれば、
ゴンザレスの戦績から、インドアで遥かに高い勝率だったというのは納得できる。
戦後テニス界最大の重鎮であるケン・ローズウォールは、
「彼のコートすなわちインドアではゴンザレスが強く、それ以外のコートではレーバーが強い」
と2人の最強選手についてのコメントを残している。
当時から「インドア」という言葉が、かなり特殊なものとして捉えられていたことがわかる。
【厳密には】
便宜上4種類に分けられているコート種別だが実際にはその種類は幅広い。
例えば同じハードコートでも全豪と全米では随分違うし、
カーペットでも、公式戦では使われなくなったとはいえ、
様々な素材が開発され今も種類が増え続けている。
クレーにもレッドクレーとグリーンクレーがあり、
グラスでさえクイーンズとウィンブルドンではバウンドが違う。
中にはきっとこのページで取り上げている特徴の当てはまらないものなども存在するだろう。
例えば速くないカーペットや高く弾まないハードコート等。
ここで述べてきたのはあくまでも基本的な例に過ぎないということをご理解いただければと思う。
ITFのHPに細かいコート種類が紹介されているが、
そこに載っているだけでも何十種類ものコートがあることがわかる。
参考までにURLを貼り付けておくので興味のある方はご参照いただければと思う。
コート種別はプレイヤーにとって非常に重要なファクターである。
その特徴によって、プレースタイルにも様々な違いが出てくる。
これらを踏まえた上で観戦すれば、テニスの面白さは更に倍増することになるだろう。
※【コート別勝率】も要チェック!
戻る
このページに対するご意見等は
まで。