【グランドスラムでの安定度を検証する】

ここではどの選手がグランドスラムでより安定した成績を収めているかを検証したい。
※対象となる選手は以下のとおり。ATPランキング導入後に活躍した引退選手に限る。

《各選手大会毎の最高成績》
選手名全豪全仏全英全米
コナーズ優勝ベスト4優勝優勝
ビラス優勝優勝ベスト8優勝
ボルグ3回戦優勝優勝準優勝
マッケンローベスト4準優勝優勝優勝
レンドル優勝優勝準優勝優勝
ビランデル優勝優勝ベスト8優勝
エドバーグ優勝準優勝優勝優勝
ベッカー優勝ベスト4優勝優勝
クーリエ優勝優勝準優勝準優勝
サンプラス優勝ベスト4優勝優勝
アガシ優勝優勝優勝優勝

※ここで簡単にグランドスラムについて。

グランドスラムとは以下の4つの大会である
・全豪(オーストラリアン・オープン)
・全仏(フレンチ・オープン)
・全英(ウィンブルドン)
・全米(USオープン)

全豪と全米はハードコート(同じハードコートといっても微妙に種類が違う)、
全仏はクレーコート(赤土)、
ウィンブルドンはグラスコート(芝生)で行われる。
コートの種類が違うと、適したプレースタイルも異なるので、複数のコートで勝つのは難しい。
特に全仏とウィンブルドンはコート特性が真逆の上、
間に3週間しか期間が開いていないので連続して勝つことが非常に難しいとされている。

かつて全豪では芝生のコートが使われており、
全米でも芝生の時とクレーの時があった。
コート種類が少なかった昔は、今ほどは勝つのが難しくなかったと言えるかもしれない。

※コート種別に関しては【コート種別検証】により詳しい説明を載せているので参照のこと。

【アガシ】


1973年にATPランキング制度が導入されてから、
4つのグランドスラム全てで優勝した選手はアガシだけである。
もちろんこれは絶賛すべき成績だといえる。
※2009年、フェデラーによって達成されたため唯一ではなくなった。

それでは、グランドスラムで最も安定度が高かった選手はアガシなのだろうか?
単純にそうだ言ってもかまわないようにも思える。全大会制覇は偉業だ。
しかし、実は、そうとは断定しにくい面もアガシは持っている。
アガシのグランドスラム成績を見ると、1回戦、2回戦での敗退が多いのに気付く。
キャリア最初の頃や引退間際ならばともかく、
全盛期と思われるような時期にも早期敗退をしているのである。
これは少々気になるところだ。
強い選手なのだから、ある程度までは常に勝ちあがってほしいように思える。
※詳細は【対決!サンプラスvsアガシ】の【キャリア比較】を参照。

では、続いて他の選手を見てみよう。

【4大会のうち、2つに優勝してる選手】


グランドスラム勝率で圧倒的な数値を見せたボルグ
しかし全米では4度決勝に進出するも優勝できず、
全豪にはキャリア初期の頃に一度出場しただけだった。(3回戦敗退)


マッケンローは全仏で1度決勝に進出してるも、全豪では準決勝どまり。


クーリエは4大会全てで決勝に進出しているが、優勝は全豪と全仏の各2回だけだった。

【4大会のうち、3つに優勝してる選手】


ビランデルは、1988年にウィンブルドンを除く3大会で優勝した。
1974年コナーズ以来であり、2004年フェデラーまで再現されることのなかった記録だ。
しかし、ウィンブルドンでは準々決勝が最高成績である。


ビラスビランデルと同じくウィンブルドンで準々決勝が最高、それ以外では優勝している。
しかし、あまり勝ち上がらずに負けることも多かった。

   
コナーズベッカーサンプラスはいずれも全仏のみを取り逃している。
その全仏での最高成績が準決勝であるという点も共通している。


一方、同じく全仏のみを取り逃してるも、
その全仏で決勝に進出できた選手がエドバーグである。
この点を評価するなら、前3人よりも優れた成績を収めているといえるが
決勝進出はその1度だけで、その年以外は準決勝にも進出していない。


そしてレンドル
唯一取ってないタイトルがウィンブルドンであることは有名だ。
しかし、そのウィンブルドンで、2度の決勝進出、
5度の準決勝進出を果たしており、充分に安定した結果を残している。
むしろウィンブルドンでの安定度は、優勝経験者のアガシよりも上だといえる。

これらを踏まえ、特定の大会でより多く勝った選手がボルグサンプラスなら
全ての大会で満遍なく勝った選手がレンドルアガシだと言えるのではないか。


   
※しかし21世紀に入り、フェデラーナダル、更にはジョコビッチの異例とも言える快挙が
 遂にこれらの勢力図を完全に塗り替えてしまった。
 現在グランドスラム最強の選手はと問われれば、
 それは間違いなくフェデラーという回答になる。
 そしてナダルジョコビッチもそれに肉薄している存在といえるだろう。
 この人達はどれだけ過去の偉大なる選手を「素晴らしかった」から「悪くなかった」に評価チェンジさせたいのだろうか。
 



【グランドスラム年間20勝以上達成者】

如何に安定した勝ち方ができているかを更に検証するため、
グランドスラム年間20勝を達成できた選手を一覧にしてみた。

名前達成年(勝利数)
コナーズ 1974(20) 1回
ビラス 1977(21) 1回
ボルグ 1978(20)、1980(20) 2回
マッケンロー 1984(20) 1回
レンドル 1983(20)、1984(20)、1985(20)、1986(20)、1987(24)、1988(20)、1989(21) 7回
ビランデル 1988(25) 1回
エドバーグ 1991(21) 1回
ベッカー 1989(22)、1991(20) 2回
クーリエ 1991(20)、1992(20)、1993(22) 3回
サンプラス 1993(23)、1994(21)、1995(20) 3回
アガシ 1995(22)、1999(23)、2001(20) 3回
フェレーロ 2003(20) 1回
フェデラー 2004(22)、2005(24)、2006(27)、2007(26)、2008(24)、2009(26)、2010(20)、2011(20) 8回
ナダル 2007(20)、2008(24)、2010(25)、2011(23)、2017(23))、2018(21)、2019(24) 7回
ジョコビッチ 2011(25)、2012(24)、2013(24)、2014(22)、2015(27)、2016(21))、2018(21)、2019(22) 8回
マレー 2011(21)、2012(22)、2016(23) 3回
バブリンカ 2015(21) 1回


まずは7年連続というレンドルの記録。ずば抜けたデータが一目瞭然だ。
特に1986年は全豪が開催されなかったためグランドスラムが3大会しか行われなかったのだが、それにも関わらず20勝を達成している。
レンドルには1985年から1988年まで10大会連続準決勝進出という20世紀の記録があるが、
どのような大会でも常に結果を出し続ける負けない選手としての本領を存分に発揮している。

  
面白いのは1991年で、エドバーグクーリエベッカーの3人が20勝以上をあげている。
レンドルが力を失った後の混沌とした状態がよく表れている。

さて、そんなレンドルや91年組の頑張りをよそに、21世紀のデータは更にとんでもないことになっている。
特に2011年はある意味歴史が作られた記念年でもあろう。


まずフェデラーレンドルを超える8年連続の20勝を達成した。偉大なる快挙である。
更にはジョコビッチ、ナダル、マレーまでもが20勝をして91年を超える計4人の達成者が生まれたのである。
しかもジョコビッチは25勝、ナダルは23勝と過去のデータと照らし合わせても極めてレベルが高い。
3名の同時達成者が生まれた91年は、どの選手も20勝もしくは21勝である。
高いレベルでの混沌と見ることもでき、次年度以降の読めない展開を予想するのも楽しい。


その後、ジョコビッチが6年連続で20勝を達成しており、一方でフェデラーナダルは達成を逃すようになる。
グランドスラムの勝利数だけが指針ではないとはいえ、勢力図の大まかな移り変わりが確認できるようになっている。
もっともフェデラーには2つの19勝というのがあり、しかもそのうちに一つは不戦勝2つを含むという極めて惜しいものであった。


2015年にはバブリンカが21勝を達成している。フェデラー、マレーを差し置いての到達は驚きであった。

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さて、そんな勢力の流れに決定的な異変が現れたのが2017年であった。
最強を誇っていたジョコビッチマレーが大幅に調子を落としたのである。
代わりに登場したのは、どの新勢力でもなく、誰あろうフェデラーナダルであった。

この年、フェデラーは18勝で、20勝こそ達成できなかったが、全仏を欠場しており、3大会のみの出場での18勝であった。
3大会の出場で20勝を達成できたのは、これまでコナーズ、ボルグ、レンドルの3人しかいない。
フェデラーは今回残念ながらその一員に加わることはできなかったものの、その3人はいずれも全盛期のど真ん中での達成であったのに対し、
フェデラーは36歳という遥かに全盛期を離れた状態での記録であったことは特筆すべきであろう。

そしてナダルも、この年31歳に達していたが、前年わずか5勝にすぎなかったのに対し実に23勝を上げることに成功した。
2011年から6年ぶりとなる20勝の達成である。
6年のブランクを空けての達成はもちろん、初の達成となった2007年から、実に10年越しでの達成という点でも、史上初の快挙となった。

ナダルは翌2018年にも21勝を上げた。その劇的な復活は1年限りのものではなかったのであった。
また、同2018年はジョコビッチフェデラー、ナダルに1年遅れて劇的な復活を果たしている。
本格的な復活は夏場からだったため、年の後半に勝ちが集中した形となっているが、
仮にこれが年初からの復活であったなら一体どれだけの成績を収めたのであろうか。




【早期敗退率】

主要選手たちの早期敗退率を数値化してみた。
大会の半分にあたる4回戦進出を目安とし、
それが出来なかった場合を早期敗退として割合を算出した。

名前敗退数出場数敗退率
ボルグ32711.11%
フェデラー 12 79 15.19%
ジョコビッチ 10 62 16.13%
ナダル 12 60 20.00%
マレー 12 50 24.00%
レンドル155726.32%
マッケンロー124526.67%
コナーズ165827.59%
サンプラス165230.77%
アガシ196131.15%
ベッカー154632.61%
エドバーグ215438.89%
ビランデル184440.91%
クーリエ204247.62%
ビラス244948.98%


圧倒的なボルグ、そしてレンドル、マッケンロー、コナーズの安定した成績がここでも示された。
ここで表された数字は、トップクラスの選手でも4回に1回は早期敗退してしまうということであり、
男子テニスでは如何に勝つのが難しいかということがよく表れている。

     
恐るべきは現役の4人衆である。
ボルグにこそ及ばぬとはいえ、その他ビッグ4の面々を上回っているのだ。
中でも1位はフェデラー。試合数を考えれば異例の数字といえるだろう。
今回の集計では4人のうち3人が敗退数12で並んでいるのも面白い。


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